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セラフィック・ブリーズ 第三話・王都ミスティヒル 王都ミスティヒルには、年間を通して数多くの人々が訪れる。 それは、首都としての必然的要因からだけではない。 この辺りは、一年の大半が霧に包まれており、地名の由来にもなっているほどである。 一昔前の戦乱の時代には、この霧のおかげで難攻不落の都市として名を知られたが、 世界が統一された現在では、霧の風景が名所として親しまれ、 この絶景を眺めるために訪れる人も多い。 それにも増して大きな要因となっているのは、 世界中に存在するすべての飛空艇は王国が所持しているということだ。 つまり、すべての飛空艇線は、国営だということでもある。 しかも、飛空艇線のほとんどは、王都を中心に運行しているため、 世界中のどの都市へ行くのにも、王都を経由するのが便利なのである。 そのため、旅行者は必ずといっていいほど王都を訪れる。 ただし、この『霧』と『飛空艇』はとても相性が悪い。 以前は霧による事故が多発し、発着時には入念な安全確認がなされていたのだが、 安全確認にばかり時間がかかってしまい、とても無駄が多かったのである。 そこで、現在の国王は即位すると同時に、飛空艇専用トンネルを建設させた。 このトンネルは、その入り口が比較的霧の発生しにくい場所に位置し、 さらにその内部では空気の流れを調節し霧が発生しない仕組みになっている。 このトンネルのおかげで、安全かつ迅速な飛空艇の発着が可能となった。 そのトンネルを、捜索隊員を乗せた飛空艇が通過する。 飛空艇がポートに着くと着陸するよりも前に数名の隊員が飛び降りた。 そのうちの一人はアートンから渡された書状を手にし、城の方面へ走っていった。 いっしょに飛び降りた他の隊員は、 飛空艇ポートの労働員に飛空艇のメンテナンスを依頼した。 隊員「医療艇の準備をお願いします。アートン将軍名の飛空艇使用許可証はここに。」 労働員「はい、たしかに。ではすぐに準備いたします。」 隊員「できるだけ早急にお願いします。準備が出来次第すぐに出発しますので。」 労働員「了解しました。」 アートンの書状を持った隊員は、城の入り口の衛兵に書状を渡した。 いくら軍の兵士と言えど、許可なしには城に立ち入ることができない。 衛兵は城には入れるが、閲覧室や執務室には近寄ることもできない。 したがって、書状は一度大臣に渡し、大臣から国王に渡してもらうことになる。 大臣の手に渡った書状はすぐに執務室の国王に渡された。 国王は一通り目を通すと、ペンを手にし書状を書き上げ、大臣に命令した。 国王「この書状を、アートンに渡すようにしてください。」 さらに続ける。 国王「それから、カラコム鉱山への道をすべて封鎖するように。」 大臣「かしこまりました。」 アートンの書状とは逆のルートで、国王の書状は飛空艇へ届いた。 と同時に、医療艇の準備が整った。 今回は、捜索ではないためそんなに人数は必要ない。 飛空艇の運転に携わる人員を除いて、医療要員五名と雑務要員八名を乗せた飛空艇は、 捜索隊の飛空艇が到着してからわずか二十分後、フロントコーストへ向けて飛び立った。 ミスティヒルの城下町では、さすがに噂になっていた。 この平和な時代に軍用艇が出動すればそれは話題にもなるはずである。 ただ、やはり噂というものは真実とは違うことがほとんどだ。 大学の博士が蒸発したなどというのはまだいいほうで、 カラコム鉱山が崩れただの、再びゴールドラッシュになっただの、 突拍子もない噂が行き交っている。 ただ、だれもそれを本当に信じてはいなくて、平和な世の中に起きた久々の大事件を、 不謹慎ではあるが、楽しんでいるようだ。 王立大学内でも、噂は広がっていた。 しかし、それは街の噂とは違い真実に近い。 なにしろ噂の発生源が城の兵士や飛空艇技師なのだから当然である。 それだけに、仲間の博士達にはリチャードの身を案じる声が多く、特に親しい人々の間では、 国王に掛け合ってフロントコーストへ派遣してもらおうという意見が出ていた。 王立大学の博士ともなれば、勝手に赴くことはできないのである。 学者というものは、頭の回転が速いだけに行動も早い。 数人で連れ立って、早速城へと向かった。 もちろん王立大学の博士でも、入城には許可が必要だが、 市民や一般兵よりは全然取りやすい。 しかも、博士ともなれば、直接国王に閲覧することもできる。 城へ到着した博士達は、すぐに入城と閲覧の許可を取る。 ぞろぞろと大勢で閲覧するわけにも行かないので、 代表としてリリー博士が国王に閲覧した。 リリーはリチャードの恋人と言うことで代表に選ばれた。 リリー「申し上げます。私どもをフロントコーストへ出向く許可をいただきたく存じます。」 国王「それはなりません。」 リリー「なにゆえでしょうか?理由をお聞かせください。」 国王「医療団がすでにフロントコーストへ向かいました。船頭多くしてというものですよ。」 リリーに落胆の色が見えた。が、次の国王の一言で、明るい顔になる。 国王「ただし、あなたがたにもやっていただきたいことがあります。」 リリー「はい。」 国王「カラコム鉱山へ出向き、今回の事件の原因を調査してきてください。」 リリー「はいっ!喜んで。」 少しでも恋人の役に立てるのがよほどうれしいようである。 国王の前ということも忘れてはしゃいでしまった。 国王「ただし、坑道への立ち入りは断じて禁じます。気をつけてお願いしますよ。」 リリーは閲覧室を出ると、待機していた他の博士達に、国王の命令を伝えた。 国王から飛空艇の使用許可も得たため大勢でも行けるが、 博士が大学から全くいなくなってしまうのは避けたいため、 数名の博士と各学科から一名、優秀な学生を選出してつれていくことにした。 読み物コーナーへ |