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セラフィック・ブリーズ 第一話・アートンと謎の女性 扉の前の男「統括将軍アートン、至急の用件につき、このままで失礼いたします。」 一人の男が執務室の扉の前で声を張り上げる。 それを聞いた国王は、ペンを置き、扉の近くまで歩み寄った。 国王「かまいませんよ。それで、用件とは?」 アートン「は。サーエイフのカラコム鉱山へ調査に向かった リチャード博士一行に事故発生との情報が入りました。」 アートンは、早口で、しかし落ちついた口調でこう話すと、 懐から三つ折りにされた紙を取り出した。 アートン「同行の学生からの伝書です。リチャード他二名、 鉱山へ出発後消息不明。至急捜索隊を派遣されたし。」 国王「そうですか。では、あなたの名で飛空艇隊を向かわせなさい。 私の名では、なにかと動き辛いでしょうから。」 アートン「御意に。早速準備に取りかかりますゆえ、これにて失礼いたします。」 アートンは一礼すると、足早にその場を離れた。 それと入れ違えるように、どこから現れたのか、 眼鏡をかけた若い女性が周囲に気を配りながら執務室の扉をノックする。 眼鏡の女性「クゥイ入ります。」 国王「どうぞ。お入りなさい。」 クゥイ「失礼いたします。」 クゥイは一礼して執務室に入ると、床に片膝を立ててかしこまった。 国王「さて、早速ですが、リチャード博士のことは耳に入っていますね?」 クゥイ「はい。そのためにかけつけました。」 国王「では、後はあなたに任せますので、いつものようにお願いしますよ。」 クゥイ「かしこまりました。お任せください。」 ドックには、数十隻の飛空艇が停泊している。 アートンはこれらの中でも一番小型の飛空艇を準備するよう、飛空艇技師達に指示した。 小型の飛空艇は、山地への発着、フットワーク、速度において、捜索活動に向いている。 準備とは言っても、普段からいつでも飛びたてるようしっかり整備されているため、 今すぐでも飛び立つことができる。 アートンは事を大げさにし市民の混乱を招くのを防ぐため、少数精鋭で行くことにした。 リチャード失踪の連絡を受けてから今まで、まだ一時間もたっていない。 噂が広がる間もなく、アートンはカラコム鉱山へ向けて出発した。 次の日の夕方、出発してから二十八時間後、 アートンの乗った飛空艇はカラコム鉱山に到着した。 この鉱山は、二百年以上も前に発見され、 当時はゴールドラッシュで大変賑わった。鉱山の入り口に町も作られ、 最盛期にはこの狭い町に三万人もの人がひしめき合っていたが、 原因不明の伝染病が流行り、徐々に人もいなくなり、 やがて誰も寄り付かなくなったのである。 その町の広場であったらしき場所へ飛空艇を着陸させ、 早速捜索に取りかかろうとしたときである。 鉱山の方で、なにかが動くのを、捜索隊員の一人が発見した。 それは、人のようにも見えるが、遠くてよくわからない。 やがてそれは、町に残されている建物の一つに入っていった。 その連絡を受けたアートンは、隊員数名を引き連れ、 他の者には捜索を始めるよう指示し、様子を見に行くことにした。 建物は、当時の宿屋だった。 入り口の扉は閉まっていることから、さっきの物影は人間と見て間違いないだろう。 魔物であればすぐにでも突入するが、人間となればそうもいかない。 リチャード一行ではないかという望みもある。 警戒しつつ、とりあえず扉をノックする。 アートン「誰かいるのか!?いるなら返事しろ!」 しかし、返事はない。 アートン「あと一分待つ!一分たって出てこなければ突入するぞ!」 すると、中でどたどたと足音がした。足音は入り口に近づいてくる。 扉のところまで来たところで、一瞬足音が消えた。隊員達に緊張が走る。 と、その直後扉が開いて、中から眼鏡をかけた若い女性が姿をあらわした。 眼鏡の女性「ったくうるさいなぁ。 この中結構広いんだからそんなにすぐ来れるわけないでしょ?!」 一同唖然とするも、眼鏡の女性は一人で話し続ける。 眼鏡の女性「ま、いいわ。なかなか早かったじゃない。さ、入って。」 隊員はまだ呆然としているが、アートンはやれやれといった表情だ。 アートン「ふー。またお前か。」 隊員「アートン様!ご存知なのですか?」 アートン「ん?ああ。こいつは、私が派遣される先々に出没する、なんとも奇妙な輩だ。 名前はファイ…とか言ったか?」 ファイ「奇妙とはなによ。失礼ね。 それに、あたしから見ればあんたらがあたしの行く先に現れるのよ。」 ファイは、腰に手を当てるそぶりをした。 ファイ「とにかく!あんたら、救助に来たんでしょう?三人は中にいるわよ。 かなり厳しい状況なんだから早くしてよねっ!」 それを聞くと、隊員達は慌てて宿の中へ入っていった。 アートン「そうか。やはり助けてくれていたのか。礼を言うぞ。」 ファイ「いいの、いいの。趣味みたいなものなんだから。 それにあんたたちが来てくれるとあたしも助かるしね。」 アートン「それにしても、お前はいったい何者なのだ。」 ファイ「私は、ファイ・フィル・ファーランシアという普通の人間よ。 ただ、世界を旅するのが好きってだけの。」 アートン「それにしても、こんな人も寄り付かない場所で、しかも救助まで…」 そこまで言いかけたとき、リチャード達が運び出されてきた。 リチャード達三人とも、特に外傷はなさそうだが、危篤状態に陥っている。 ファイの言うとおり、かなり危険な状態で、 すぐにでも施設の整った病院へ運ばなければならない。 三人は飛空艇へと運ばれていく。ファイとアートンもそれについていく。 アートン「王都まで戻っている余裕はないな。クラウデリアに行くか。」 ファイ「ねぇ、それよりさ、フロントコーストに行ってくれない?」 アートン「フロントコースト?そんな田舎に行ってどうする気だ。」 ファイ「腕のいい医者がいるのよ。この船なら三十分もあれば着くでしょう?」 アートン「しかしなぁ。一刻を争う事態なのに信用していいものか。」 ファイ「一刻を争うんだから迷ってる暇はないでしょう? クラウデリアに行ってる暇だってないじゃない。」 アートン「そうだな。賭けてみるか。」 ファイ「じゃあ、あたしも連れてってね。紹介が必要でしょう?」 といい終わらないうちに、ファイはさっさと飛空艇に乗りこんでしまった。 読み物コーナーへ |