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セラフィック・ブリーズ プロローグ

その日、村はひとつの話題で持ちきりだった。

ここは王都からはるか北西、サーエイフ地方のさらに外れののどかな漁村。
この村は、三方を山に囲まれ、
一番近い集落へも片道二日かかってしまうような場所にある。
頼みの綱の海路も、湾を一歩出ると激しい海流が待ち受けていて、
村にあるような船ではとても外に出ることはない。
ただ、湾は広く魚介類が豊富で、土壌も豊かなので、
とくに外に出なくても生活には困らない。

そんな村なので、外からの来訪者といえば、月に一度来るか来ないかの郵便配達と、
町に出ていった若者が、年に一度帰郷するかしかない。
ましてや、王立大学の博士が訪れたことなど、どの村人の記憶にもないことである。

この、村の有史以来ともいえる大事件は、一瞬で村中に広まった。
浜には村中の人間が集まり、桟橋に停留している豪華な船を見ながらざわついている。
しばらくすると、船の中から5人の男女が姿をあらわした。
その中でも、他の4人より明らかに年の離れた青年が、
桟橋の口で成り行きを見守っていた村長他数名の元へ歩み寄って、話をはじめた。

青年「私は、王立大学魔法科学博士、リチャード・モルゲンと申します。
    後ろの者らは、私の研究室の研究生です。」
村長「これは、こんな遠くまでようおいでなすった。しかし、こんな村にまた何のご用で?」
リチャード「ええ、数日の間こちらに船を停泊させていただきたいのですが。」
村長「はぁ、それはかまわんが…。なぜまたこんな辺鄙な村へ?」
リチャード「実は、この奥にある金鉱山に地質調査に行く必要がありましてね。
    ご存知の通り、こちらからしか向かえないものですから。」
村長「なるほど。そう言うことじゃったら、お気軽にお使いなされ。」
リチャード「ありがとうございます。
    では数日の間ご迷惑をおかけしますが、宜しくお願いします。」
村長「いやいや、礼には及ばんよ。しかし、宿はどうするつもりじゃ?」
リチャード「あ、ご心配なく。船内に宿泊設備はございますので。」
村長「長旅でお疲れじゃろ?もしよければ村の集会場をお使いなされ。
    設備は不満かもしれんが、海では疲れが取れんじゃろう。」
リチャード「え?!そうですか!?
    いやぁ、実は体中が痛くてうんざりしていたところなんですよ!」
村長「はっはっは。なかなか正直な青年じゃな。」

この村では、何かにつけて宴会を開く。
集会場という名前はついているが、もはや宴会場に近い。
それは、この日も例外なく開かれた。
小一時間ほど経ち、すっかり盛り上がっている。
村人A「それにしても、学者さん、なぜ船でこんな村へ?」
学生A「え?地質調査のためって聞きませんでした?」
村人A「おう。それは聞いたけどよ、王立大学の博士ご一行様ともなれば、
    王国の飛空艇が使えるんじゃないのかい?」
リチャード「飛空艇を使うようなたいした調査でもないんですよ。
    調査結果によっては飛空艇団を組むかもしれませんけど。」
村人B「それと、もうひとつ。おまえさん魔法学の博士だろ?なんで地質調査なんだ?」
リチャード「私は魔法学者ではなくて、魔法科学者だからですね。」
学生B「魔法科学というのは、物質から魔力を見出す学問ですから、
    地質調査も魔法科学の一部なんですよ。」
村人B「ふ〜ん。難しいもんだな。」
その日は、空が白むまで笑い声が絶えなかった。

昼過ぎ、リチャードは出発の準備を整え、村長を訪ねた。
リチャード「昨日は盛大な歓迎をしていただきありがとうございました。」
村長「いやなに。この村の衆はいつも飲む口実を探しておってな。
    礼を言うのはこっちじゃて。」
リチャード「はは、楽しい村ですねぇ。…さて、そろそろ出発しようと思います。」
村長「もう少しゆっくりしていけばよかろう。」
リチャード「そうしたいのはやまやまですが、大学に戻る日も決まってますので。」
村長「そうか。くれぐれも気をつけてな。」
リチャード「はい。それから、船のメンテナンスのために二人置いていきますので、
    仕事でもあれば気軽に言いつけてやってください。」
そう言い残して、リチャードは学生二人を連れて、鉱山に向けて旅立って行った。

村長「のぅ学生さん。先生はどれくらいで戻る予定なんじゃ?」
女学生「少なくとも片道四日かかりますからね。作業を含めて二週間の予定です。」
村長「ほぉ。結構長いんじゃな。ま、気楽に暮らしなされ。」

二週間後。
三人は戻ってこなかった。

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